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友納理緒:“新しい働き方”への看護管理者としての対応
2月4日に開催された「日本看護サミット2021」。この鼎談「2040年に向けて、いま看護職に求められる働き方」に登場された友納理緒さんの発表内容をご紹介いたします。
“新しい働き方”への看護管理者としての対応 友納理緒
皆さん、こんにちは。前日本看護協会参与の友納理緒と申します。今日は、このような時間をいただき、心より感謝申し上げます。
私がいただきましたテーマは「“新しい働き方”への看護管理者としての対応」です。今日はこのテーマに沿って、お話をさせていただきたいと思います。
まず、コロナ禍において、皆さん、本当にたいへんな中で医療・看護を提供してくださっていると思います。そのことに、心から敬意と感謝を申しあげたいと思います。
私は現在、弁護士という仕事をしておりますので、皆さんが働く現場を法的な側面から支援させていただいております。今日は「新しい働き方」について、看護と法律的な側面とを合わせてお話をさせていただきます。
◉高度な看護人材を確保するには働き続けられる環境が必要
働き方改革関連法施行に伴って、雇用主としての看護管理者には、新しい働き方への対応が求められます。
このコロナ禍において、高度な医療・看護に対応できる看護職の確保が問題になりました。たとえば、コロナ病棟で皆さんが働いていらっしゃるとして、その現場の看護職が足りないという状況に陥った時、やはりある程度の技術・能力のある看護職の方にきていただく必要があります。
そう考えますと、やはり皆さんが働き続けられ、そして自身の技術や能力を向上させていくことができる環境を整えることが重要になります。今求められている「新しい働き方」が、私たちが働きつづけられるような働き方になっているのであれば、看護管理者としては、その内容をきちんと理解した上で、適切に対応しなければならないと思います。
そこで,新たな働き方の中で、看護管理者に、何が求められているかを考えていきたいと思います。
◉働き方改革を進めるための環境整備
働き方改革の目的は、労働者、つまり私たち看護職にとっては、多様な働き方を自分で選択し、ワーク・ライフ・バランスを実現し、よりよい将来の展望を持つことです。この目的を達成するための大きな柱として、処遇改善、これまであった制約の克服、キャリアの構築、この3点があげられています。
多様な人材が、個々の置かれた状況に応じて柔軟に働き方を選択して、意欲や能力を発揮できるような社会を構築していく必要があります。
具体的には、ひとつは、長時間労働の是正です。私たち看護職は長い時間働いていますが、なるべく長時間労働をなくしていくことが必要になります。
それから、柔軟な働き方がしやすい環境の整備です。今、兼業や副業の推進が、国によって言われていますが、どのように考えればよいでしょうか。フリーランスのような、雇用に似た働き方への対応も考えられます。また、私たち看護職も病気を抱えることがありますから、そういった病気の治療、さらに子育てや介護との両立、それらも重要になってきます。
看護職にとっては、高齢者の就業促進という観点も重要です。プラチナ・ナースと呼ばれる方々の活躍が、これからとても重要になっていくと考えています。と言いますのも、今は看護職の平均年齢が43歳と言われていますが、そういった中で、子育て世代に対する支援は充実してきましたが、その周りの皆さんが余裕をもって働くことができる体制を整えていくことも重要だと考えているからです。そのためには、プラチナ・ナースの存在が大きな力になると考えます。
◉看護職が働き続けられる働き方・環境
看護界においても、新たな働き方が模索され始めています。
たとえば、看護職が自身の得意分野や専門性を活かして、組織を越えて、あるいは他の医療機関や介護施設などとの組織間ネットワークの中で横断的に幅広く活躍する、そういった新たな働き方が模索され始めています。
このコロナ禍において、看護職は使命感から、また必要に迫られて、感染管理が専門の皆さんが自施設だけでなく自施設以外に出向いて、教育や研修を行ってこられたと思います。
これは有事における対応でしたが、たとえば平時から専門性を活かした多様な経験ができれば、その方ご自身の成長にもつながりますし、収入が増加する可能性もあります。こういったことで、自己実現が追求できて、モチベーションが上がっていくことも考えられます。一方で、医療機関や看護管理者の立場からは、そういった柔軟な働き方への対応、環境整備は、優秀な人材の離職防止につながる可能性があります。
◉まず看護管理者自身がワーク・ライフ・バランスを大切にする
看護管理者の立場として、新たな働き方に対応することがとても重要になります。そのためには,看護管理者の皆さんのマネジメントのあり方が鍵となります。
適切なマネジメントがなされないと、いくら働き方改革が推進されたとしても、実際の現場で実現できないことがあります。
まず、前提として、看護管理者ご自身のライフワークを大切にして、新しい働き方への理解を深めていただきたいと思います。皆さんが一スタッフとして働いていらっしゃった時には、ワーク・ライフ・バランスの視点よりも、目の前の状況に対応して必死に働いてこられたかと思います。けれども、これからは、ご自身が働きやすい状況を作って、働いていくことも重要です。ご自身が、そのような時間管理を考えることは、必ずマネジメントにも活きてくると思います。
その上で、つぎの3点が重要なポイントと考えます。労働時間を管理すること、健康管理、そして学びの支援、この3点です。具体的に看護管理者としての対応について考えていきます。
◉看護管理者としての対応[1]労働時間の管理
まず労働時間の管理について。たとえば、副業・兼業といっても、あまりイメージが湧かない方も多いでしょう。実際、現状では、一般企業も医療機関も含めて、兼業を禁止しているところが多いと思います。しかし、これからは多様な働き方が求められますから、副業・兼業のことも少し考えなければいけないと思います。
労働時間管理という観点から副業・兼業を考えますと、副業先の労働時間も通算されることになります。そのため、副業先の労働時間についても、きちんと申告をしてもらい、正確な労働時間を把握しなければいけないという問題が発生します。看護管理者として、そういった視点で取り組んでいくことも、重要になると考えます。今の職場の労働時間だけでなく、副業先、兼業先の労働時間も通算で考えなければなりません。
実は、こういった通算した労働時間に対して法律上の責任を負うのは、後から労働契約を締結した使用者になります。だからといって、自分は後からではないから、通算の労働時間について関心を払わなくていいということではなく、やはり労働時間全体をきちんと管理することが重要です。事業主である皆さんは、安全配慮義務、つまり労働者を生命や健康の危険から保護するように配慮すべき義務を負っています。この義務を果たすという観点からも、きちんと労働時間管理に対応しなければならないと思います。
◉看護管理者としての対応[2]健康管理
次に健康管理について。法律上求められている健康診断の実施と合わせて、看護職自身が適切に心身の健康を管理し働き続けられるように支援することが大切です。特に女性の多い職場ですので、どの業界にも先立って、働く女性の健康管理について考える必要があると思います。
女性には、男女に共通する健康問題以外にも、女性特有の健康問題、たとえば、骨粗鬆症とか、骨折、関節、筋肉の変形、認知症など、女性ホルモンの低下に関連して起こりやすいさまざまな問題があり、働き年をとっていく中で、生活の質を著しく落としていきます。
仕事と出産育児との両立が問題となる生殖世代の女性の健康問題、これも大切です。子宮内膜症や、子宮筋腫、卵巣嚢腫、乳がんなど、女性特有の疾患があります。また、不妊の問題もあります。
このような女性の健康問題は、女性が子どもを産み育てながら、働き続け経済にも貢献し、そして健やかに年老いていくためにも、とても重要です。
ですので、女性の健康問題は、個人の問題として捉えずに、社会の問題としてきちんと考えていく必要があります。看護は、私たち働く女性がとても多い現場ですので、そういった声を上げやすい状況にあると思います。なによりも先立って取り組んでいかなければならないと思います。看護管理者の皆さまにも、女性の健康問題について、考えていただきたいと思います。
◉看護管理者としての対応[3]学びの支援
もう一つは、学びの支援です。所属施設だけではなく、地域全体で活躍できるように、柔軟な働き方ができるように、また隣接する他領域に目を向けた学び、こういったものを支援していただければ、と思います。
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今日のテーマ「2040年に向けて、いま看護職に求められる働き方」 というのは、能力と意欲のある人たちが、主体的にキャリアを形成し、健康を管理しながら働き続けることができる看護現場を実現していくことだと思います。これを、看護管理者の立場である皆さまは、今回、お話ししたような労働時間の管理、労働者が自分たち自身で健康管理ができる支援、そして学びの支援を通して、実現していただければと思っております。
お時間をいただき、ありがとうございました。
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